しばらく有田焼に関するブログが続いていましたが、
今回は久しぶりに北欧ヴィンテージ家具についてご紹介いたします。
今日ご紹介するは、1950年代にハンス・J・ウェグナーがボーエ・モーエンセンとともにデザインしたイージーチェア「PP105」です。
当時、一般庶民でも手の届く価格で、質の高い家具を手に入れられるようにとのFDBの当時のキャンペーンのために、ウェグナーとモーエンセンはチェア、テーブル、ソファから構成されるシリーズを作りました。
FDBとはデンマーク生活協同組合連合会(Fællesforeningen for Danmarks Brugsforeninger)の略称です。1866年にクリスチャン・ソンネ氏によって始められたこの組織は、一般の人たちの「日常生活に寄与すること」を目的として創設された協同組合です。
1942年にはFDBの家具部門が設立され、インテリア事業という角度からデンマーク国民の生活の質をあげたい、という組織の願いのもとFDBモブラーが誕生しています。
FDBモブラーは、コーア・クリントが監修を担い、初代代表をボーエ・モーエンセンが務めた家具メーカーです。
家具デザインは、ハンス・J・ウェグナー、アルネ・ヤコブセンなどデンマークを代表する有名デザイナーたちがFDBモブラーから数々の名作を生み出し、誰もが知るデンマーク家具の代表作となり、今日も愛され続けています。
少し話がそれましたが、チェアについてご紹介を続けます。
当時FDBのキャンペーンのために複数種類の家具デザインを行う必要があった二人は、デザインの権利を分けるために、モーエンセンはソファを、ウェグナーはチェアを製作することとなりました。
こうしてデザインされたチェアは、その後PPモブラーがウェグナーと提携してPP105を改良することとなり、1979年に正式にPPモブラーより製造が再開されました。
このチェアはデンマークの伝統的・古典的なデザインで、モーエンセンとの合作の面影も残っていますが、17世紀に多く製造されたイギリスの伝統的なウィンザースタイルへの、ウェグナーの情熱が見受けられる作品です。
ウィンザーチェアとは、17世紀後半よりイギリスで製作され始めたチェアのことを指します。当初ウィンザーチェアは、地方の地主階級民の邸宅や食堂などで主に使用されていましたが、やがて旅館やオフィス、中流階級の一般家庭にも浸透していき、広く愛用されるようになりました。
ウェグナーは、デンマークの近代デザインの父とも呼ばれているコーア・クリントが提唱した「リデザイン」にインスピレーションを受け、中国の明式椅子からデザインされた「チャイナチェア」やイギリスのウィンザーチェアからデザインされた「ピーコックチェア」など、古典様式の椅子を研究し、そこから新しいデザインを生み出したことで知られています。
このPP105チェアにも、イギリスの老舗メーカーERCOLなどにもよく見られる、ウィンザーチェアならではの特徴がデザインによく反映されていますね。
歴史と伝統を重んじること、デザインを極限までシンプルに落とし込むこと、そして人々の生活の質に貢献すること。
このチェアを通して、ウェグナーのインテリアデザインにかける情熱や、誠実な人柄を感じ取れるような気がします。