今回のブログでは、ヤコブセンの名作「エッグチェア」についてご紹介いたします。
エッグチェアは先日ご紹介したスワンチェアと同じく、デンマークにあるSASロイヤルホテルのロビースペースに設置するために1958年にデザインされた、北欧デザインを代表する作品のひとつです。
1950年代後半、ヤコブセンはこのホテルの建物からドアノブ、カトラリーにいたるまですべてをデザインし、エッグチェアやスワンチェアもこのトータルなデザインソリューションの一部として製作されました。
こうしたヒストリーからも、ヤコブセンの完璧主義の性格と一切の妥協を許さない、デザインにかける真摯な姿勢が伺えます。
完璧主義のヤコブセンは、エッグチェアのフォルムにも強いこだわりを持っていたそうで、粘土で当初そのフォルムデザインを作成した後、エッグチェア完成までの間は彫刻家のように自身のガレージでワイヤーと石膏を使用した試作を繰り返し、シェルの完璧なフォルムを追及していったそうです。
当時では画期的だった発泡ウレタン(詳しくは一つ前のスワンチェアのブログをご覧ください。)を加工して製作されており、その左右を囲んだフォルムが特徴的です。
当時は脚はアルミで製作されていましたが、1973年以降はアルミの台座とスチールの脚を使うようになっています。
エッグチェアはその未来的な形状から、現在においても「モダンな美」という言葉がピッタリの印象です。
発表から60年以上たった今日も色褪せることのない近未来性は、ヤコブセンのそこ知れないデザイン力と卓越した先を見通すセンスを感じさせます。
またビジュアルの美しさだけではなく、人間の体をやさしく包みこみ快適で、安心感のある座り心地をご体感いただけます。
また、エッグチェアを正面から見ると面白いことがわかります。
実はこのチェア、左右対称に作られていません。
よく見ると、背もたれの右側の方が左に比べて高く上がっていたり、左右でアームの開きの大きさが異なっていることがわかるかと思います。
これはなぜかというと、上記で述べた当初ヤコブセンが粘土で作ったエッグチェアの原型を型取りしたものを今もなお使用しているからなのです。
私たち人間・動物のように左右完全なる対称の生き物が存在しないように、
この絶妙に均等の取れていないデザインであるからこそ、エッグチェアはいつまで眺めていても飽きることのない、モダンながら温かみを感じることのできるチェアなのだと思いました。
そしてエッグチェアの生地張りは複雑な作業のため機械で行うことができず、60年以上経った今でも一つ一つ人の手で裁縫されています。
また、その縫い目は実はカーブの中心部ではなく若干外側に来るように設計されており、人が座った時に縫い目の凹凸が邪魔にならないように作られています。
この縫い方は通常よりも非常に手間のかかる縫い方のため、張り職人の腕の高さも問われるチェアです。
1脚のエッグチェアを製作するのに、なんと1100針もの裁縫が必要となっています。
量産型の機械生産家具では考えられない、一つ一つ大切に製作されたチェア。
今日、エッグチェアはヤコブセンの偉業を象徴するアイテムの1つとして、またスカンジナビアのクラフツマンシップの記念碑的な作品として世界中で認識されています。
その美しさと心地よさを、ぜひコンシェルジュルームにて皆様体感しにいらしてください。